「 ハズレだらけ」のガチャの時代
「ガチャ」という言葉が、いろんな場所で使われている。
ぼくが小さい頃に触れてきたガチャは、「何が出るかがわからない面白さ!」が魅力だったはずだけど、最近ではどうにも「運の悪さや失敗」と同じ意味の言葉になっているらしい。
親ガチャや教師ガチャ、学校のクラスもガチャ……。 社会人になってからも、上司ガチャとか配属ガチャ、勤務地ガチャなんて言葉まであるくらい。
まさに現代は、「ガチャ時代」。
どのガチャにも共通するのは、“ 引いた人たちが嘆いてる”。
「もう終わったわ……」 「こんなの無理ゲーやん」 「諦めるしかないか……」
そんな気持ちを「わかる」とは言わないけれど、ぼくもちょっとは経験がある。 北海道の片田舎の少し変わった家庭に生まれ育ち、出来のいい5人のきょうだいに囲まれて、中学校ではやんちゃな友だちと一緒に過ごし、偏差値39の高校に行って受験は失敗するし、大学では大きな夢があるわけでもなく10種以上のバイトを転々として、大卒で入った会社は1年で辞めた。 それなりに、良くない「ガチャ」も引いてきた。
今では、【5 教科を教えない学習教室】として、子どもたちの興味にまかせて、彼らと一緒に宇宙にiPad を打ち上げてみたり、獣医さんと一緒に軍鶏の病理解剖をしたり、地域の梅を使ったジュースを商品化してお店をしたり、自作の船で琵琶湖を横断したりと、はたから見ると不思議な「教育」の仕事をしている。
それでもありがたいことに、奇特で先進的かつ変な大人たちが面白がってくれて、企業や行政との新しい教育の取り組みがいくつも同時並行で進んでいたりもする。 最先端の技術を提供してもらったり、新しいゲームをつくったり、地域の施設の活性化のサポートをしたりしている。
何より、生徒たちが楽しそうに過ごしている。 親御さんから、「子どもが変わった」とか「こんな側面もあったなんて」と言われると、「この教室を始めて良かった」と思いつつ、「どうにかここまで来て良かった」なんてことを思ったりもする。
大学も、結局「ガチャ」の繰り返し
振り返って思うのは、人生はガチャの繰り返し。 ガチャも悪いものじゃない。
当然、運に左右される部分はあるけれど、ガチャとうまいこと向き合うにはそれなりに「コツ」があるようで、それを人に伝えられるくらいになってきた。
そんなガチャとの向き合い方の「コツ」を知った子どもたちが、可能性や環境や将来を自分たちで変えていく。 なかなかいい感じにガチャを引いて、彼らが変わっていくプロセスやその姿を、ぼくは何度も見てきた。
もちろん、親とか国とか時代とか、自分ではどうしようもないように見えるガチャはある。人によって環境や条件は違うし、越えられる人もいればむずかしい人もいる。
ただ少なくとも「これから引くガチャ」には勝ち筋があるし、アタリを引く方法は、実はいくつも存在している。
一方で、これまでアタリの確率を上げると言われてきた「良い大学や良い会社」の影響は、年々どんどん少なくなっている。 それは、君も気づいているはずだよね。 生成AI がびっくりするくらいに大きく速く発達・拡散して、これまでの「教育」の意味が変わり始めている。
東京大学に入っても「こんなはずじゃなかった」という人もいるし、いわゆる「F ラン」と呼ばれる大学だってチャンスはつかめる。
弁護士や医者や公務員になっても不安を抱える人もいれば、オタクやヤンキーと呼ばれていた人が楽しそうな人生を送っているケースだっていくらでもある。「AIが仕事を奪う」という人もいれば、「AIで人類は進歩する」という人もいる(ぼくは圧倒的かつ絶対的に後者の立場だ)。
数年先にどうなるか。 わからないのは10代の君だけじゃなくて、親や先生だってわからない。当然ぼくも、まったくわからない。 次に何が出てくるのかは、専門家や賢い人たちにも予測はできない。今は誰も注目していない技術や分野が、たった数年後に急に脚光を浴びて注目されることもある。
それって、まさに「ガチャ」そのもの。 そういう意味で、今はリアルに「ガチャ時代」。
本来の「ガチャ」の意味に立ち返ったら、むちゃくちゃ面白い時代が来ている。
偏差値で大学を選んでも、アタリが保証されてるわけじゃない。 大学生活という、10 代から20代にかけての貴重な4年間と数百万円を使って、どんなガチャを引いていくか。 満足できるアタリを引くためには、どんなスタンスでどう考えて動いていくか。 その準備とコツの習得は、どのタイミングからでもできるし、いつでも誰でもできる。10代のうちにできたら、そりゃ面白いことは増えるはず。
「 アタリを増やす」ガチャのコツ
いちばん簡単で、ぼくがこの本を通して伝えていきたいことの本質がある。
ガチャのアタリを増やすコツ。 それは、「引く回数を増やす」こと。
あまりにも単純すぎて、アホだと思われるのは重々わかってる。 わかっているけど、真理だよね。 どこかにアタリがあるのなら、引けば引くほどアタリに出逢える可能性は高まっていく。
ただ、実際にやっている人って(大学生や社会人でさえ)少なくて、むしろガチャを引く前に考えすぎたり、期待値が高すぎたり、「ちゃんと調査をして準備して失敗しないように確実にアタリを引かなくちゃ」、「アタリ以外は全部ハズレだ」と思いすぎてしまう。 場合によっては、怖くてガチャを引かない人もいる。 「失敗」という言葉が、恐怖心を煽ってくるから。
ぼくは「失敗」という言葉に違和感があって、「敗けて失う」ことなんて、そうそうないと考えている。 いろいろ試してみた方が得られるものだらけだし、ぼくのまわりの人たちが証明してくれている。試しにやってみても失敗することは少ないどころか、ガチャを引いたら何かしら手元に残るものがある。
だから、ひらがなの「しっぱい」でいいし、この方が怖くなさそう。 たくさん集めたらグレードアップしそうなコレクション感覚も出てくる(ような気がしない?) よく「失敗したっていいんだよ」と言ったりするけど、ぼくは「どんどんしっぱいした方がいい」と伝えたい。伝えている。
18歳までに、もしくは社会に出る前に、できるだけ「しっぱい」のコレクションを増やす。今のうちにその準備をしておけば、どうにもできない「失敗」を遠ざけることができる。 いきなり数百万円のガチャを引く前に、小さいガチャを引き続けることで、大きなリスクを負わずに済むし、確実にアタリに近づいていける。
ぼくが教室の子どもたちと一緒に探して見つけた、「ガチャ時代」の過ごし方を、これからひとつずつ伝えていこう。
“しっぱいを教える教室”の代表が高校生に伝えたい「ガチャ時代」のやりたいことの見つけ方
INTRODUCTIONより
定価1,650円(本体価格1,500円) 川村哲也 刊行予定日:2024年08月08日 ISBN:978-4-325-26657-0 四六判
目次
INTRODUCTION 「ガチャ時代」の到来
CHAPTER 01 「しっぱい」のすゝめ
CHAPTER 02 「勉強しなきゃ」は何のため?
準備編:疑う・忘れる・逆らう・掘り下げる
CHAPTER 03 「知ってる世界」はどれくらい?
初級編:探す・触れる・考える・面白がる
CHAPTER 04 「最適な世界」は自分でつくれる
中級編:吐き出す・妄想する・書く・試す
CHAPTER 05 「お勉強のその先」へ踏み出そう
上級編:広げる・伝える・増やす・与える
CHAPTER 06 アタリは「自分の意志」で引く
未来編:いっぱいしっぱいする
メッセージ 最後にもう一度 「しっぱいのすゝめ」