仲光雄の京大古文スペシャル講座
~最高峰に至る登山道をさぐれ~

仲光雄の京大古文スペシャル講座 ~最高峰に至る登山道をさぐれ~

2021年 08月 02日

 

京大では、理系学部を含むすべての学部で、二次試験(個別試験)の国語で古文が出題されています。すなわち、京大をめざすならば、古文は必須なのです。
では、京大のような記述式の古文で高得点をねらうには? このほど刊行された『京大古典プレミアム』の編著者、仲光雄先生にうかがいました。

 

 

――京大の国語の問題は本当に難しく、考えさせられる内容だと聞きます。特に古文の問題には手も足も出ないという受験生の声もあります。先生は、このたび『京大古典プレミアムという本を執筆されたということですが、どんな本ですか。

 「京大古文」の良問を精選し、京大ならではの珍しい出典や味わい深い文章を取り上げた「最高峰」の問題集です。京大古文の設問は、〈きっちりとした読解を前提に、しっかりとした記述を要求する〉という王道をいっているので、「読解の方法」と「記述の手順」を身につけるのに最良の問題集だと思います。

 

――目次を見ると、「和歌を含む文章」「歌論」「江戸の随筆」などいろいろありますが、先生が問題としておもしろいと思ったのはどれですか。

 権門家の貴公子との間に子をもうけたが、夫の父に我が子を取り上げられてしまう女の悲しみを描いた『しのびね』(2003前期)、「あふまでの命もがなと」で始まる和歌の解釈の微妙な違いを丁寧に論じた『新古今集美濃の家づと』(1997前期)、ある夜「ぬす人」に入られた作者が、親しい友が訪れたようなさわやかな思いになったという不思議な思いを述べた『ぬす人いりしまど』(1977)の3題ですね。すこし難しいが、諸君も楽しんでほしい。

 

――どれもこれもすごく難しそうですね。基礎からがんばりたいという生徒さんはどのあたりから始めるのがいいでしょうか。

 いきなり頂上というのは大変でしょうから、古文学習に必要な登山道をまずは2つ示すことにしましょう。傍線部の訳を作ってみてください。どちらも京大の古文の設問としては易しいものだが、まずはこんなレベルからじっくり取り組んでほしいですね。

 

 

①文法の知識を有効に使う

(中納言長谷雄卿は、学問・技芸に通じて)a世に重くせられし人なり。(見知らぬ男が双六の勝負に誘い、朱雀門の下に連れて来て)「この門の上へ昇り給へ」といふ。bいかにも昇りぬべくもおぼえねど、男の助けにてやすく昇りぬ。(2007理系・『長谷雄草子』)

⇒助動詞の「らる(←られ)」「き(←し)」「なり」を正しくおさえれば、aの〈世間で重んじられた人である〉の訳はたやすいでしょう。また、bの方は、「ぬ」が強意、「べく」が可能、「ね」が打消の助動詞。強意の訳出はやや面倒だが、〈どうにも昇ることができそうにも思われないが〉となる。これらの助動詞があやういようなら、文法総復習の必要有りですね。

 

②古文の単語力を生かして答える

(中将は、行方知れずとなった恋人を捜し、長谷寺に参籠していた)暁がたに少しまどろみたる夢に、cやんごとなき女、そばむきて居たり。さし寄りて見れば、我が思ふ人なり。(そこで中将は)「dおはしましどころ、しらせさせ給へ」(と声を掛ける。)(2000前期・『住吉物語』)

⇒「やんごとなき(し)」は〈高貴だ〉、「そばむき(く)」は〈横を向く〉、「居(る)」は〈座る〉で、cは〈高貴な女が、横を向いて座っている〉となる。これなら易しい。またdの「おはしまし(す)」は〈いらっしゃる〉、「どころ」とセットで〈いらっしゃる所〉、「せ」は使役、「させ」は尊敬の助動詞、「給へ」は尊敬の補助動詞の命令形。以上をあわせて〈(あなたの)いらっしゃる所を、(わたしに)知らせてください〉となる。

 

 ここまでを読んで、なあんだ、単語と文法がわかればいいのかと思っている諸君は考えが甘い。もう2つの要素を挙げましょう。

 

③人物・場面・出来事を整理する

(後醍醐天皇の鎌倉幕府打倒計画に協力した公家たちが、鎌倉方に捕えられて流罪になった。花山院の大納言師賢も、下総へ護送される。これに先立ち、天皇も隠岐島に流されていた。)(師賢の歌)「別るとも何か嘆かん君住までうきふるさととなれる都を」(2010文系・『増鏡』)

⇒「か」が反語、「うき」は〈つらい〉、「ふるさと」は〈昔なじみの土地〉等の意味を正しくおさえることも大切だが、「君住までうきふるさと」は〈後醍醐天皇がお住みにならず、つらい昔なじみの土地となってしまった京の都〉のことで、〈そこを別れて行く私は何も嘆くことはない〉という意味となる。こうなると「人物・場面・出来事」といった背景を踏まえて答える必要があり、少し京大らしくなっています。

 

④和歌では風景と人事の二重構造に注目する

(母を亡くした幼い娘の詠んだ和歌である。)「垣ほ荒れてとふ人もなきとこなつは起き臥しごとに露ぞこぼるる」(2012理系・『苔の衣』)

⇒この和歌の現代語訳は難しい。〈垣根が荒れて訪れる人もないなでしこの花は、朝夕ごとに露がこぼれ落ちる〉という風景を詠んだものと、〈母が亡くなって言葉を掛けてくれる人もいない私は、明けても暮れても涙が流れることだ〉という心情を二重構造で示そうとしたものです。このような和歌になると、一気に難易度が上がるような気がします。ここで差がつくのです。この解説は、『京大古典プレミアム』第二章の2を見ていただきましょう。

 

――登るべき山の高さが少しずつ見えてくる感じがしますね! 最後に、受験生へのアドバイスをお願いします。

 最高峰を目指すにも、そこに至る登山道はじっくり力をつけて地道な努力をすることが大切ですね。

 

――なるほど。それにはこの本が相棒としてぴったりですね。本日はありがとうございました!

 

sensei

仲 光雄(なか・みつお)

 京都大学文学部卒業。東大寺学園・奈良女子大学附属中等教育学校国語教諭を経て、河合塾講師(古文)をつとめた。長年にわたり、多くの京都大学志望者に国語を指導し、合格へと導いている。

 現在は、仲国語ゼミで教えながら、中高生向けの国語関係の参考書・模試問題の執筆などの仕事をする。

 主な著書に、『古文上達 基礎編』『必携 古典文法ハンドブック』『速読古文常識』『出る順に学ぶ 頻出古文単語400』(以上Z会)、『体系古文』(教学社)、『仲先生の古典文法の基礎と実践』『シグマ標準古文単語』『入試の現代語600』(以上文英堂)、『共通テスト対策問題集』(エスト出版)などがある。

 

 

 

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