運気が上がるよう、四つ葉のクローバーのしおりを使っています。
藁をも掴むそんな受験時期には神さまも仏さまも、また受験勉強をともにした辞書や参考書も合格祈願の対象。志望校の赤本はなおさら。偶然見つけた「四つ葉」のクローバーは、きっと受験に幸運をもたらしてくれそう。そんな小さな希望もまた、この時期の心の支えに。等身大の真理が、見事に言語化されたいい句。こんな句が出来るごまさん、きっと目標を達成することだろう。
赤シートは受験生に欠かせないもので暗記する時に字を隠すために使うものですが、挫折しそうになった時、ふと赤シートを空にかざしたら、第一志望に合格している未来が透けて見えた気がしました。
暗記用の赤いシートは、受験生のアイテム。効率的に暗記するにはとっても便利だが、単に単語や意味、年号などを覚えるだけでなく、その先に透けて見えてくるのは、受験という試練を乗り越えた作者の未来。正に「無限大」の可能性をもった世界だろう。受験という一時期の嵐の後に広がる世界の大きさ、期待感が伝わる。
受かってからの学校は今からしたら新世界で,赤本はもう使わないから。
赤本を友として努力した時間は、やがて大きな花を咲かすのだろう。ある意味、受験という縛られた時間を過ごす赤本との別れが、作者にとって新世界への第一歩となるよう。それを知ったうえで赤本と取り組む作者の覚悟と姿勢が十七音から見えてくる。
漢文を学んでいると出てくる「レ点」が、人生を変える分岐点と感じた作者。前に戻って読ませる小さな記号を取り違えてしまうと、試験の得点にも影響して、まさかの浪人という人生のレ点に…。微視的な事象から人生を見た視点が面白い。
勉強部屋が寒いという環境の寒さばかりでなく、受験の冬という心の凍えを背負っての一時期。これを乗り越えたところに、真の春の温かさが…。「春を塗る」という下五が、作者の覚悟のように広がってくる。
すべてを受験に傾注することの多い受験時期だが、こういった生き方も大切な姿。二刀流の大谷選手にあやかって、どっちも貫徹しようという心意気がいい。みっちゃんの二つの道のどちらも成功することを願うばかり。
難問を難しいもの、自分には解けないものと逃げ出してしまう人もあるかもしれないが、あえて難問を解くことを楽しみに。こんな前向きな姿勢なら、受験勉強も苦にならないかも。進化、成長していく作者が目に浮かびそう。
物理学の加速度なら、公式から導けそうだが、受験という力を受けての作者の加速度は、いかばかり。受験の「その日」がどんどん近づいて来る気配が、18歳の心を悩ましているよう。「その日」の後は、真の自由の加速度を感じることだろう。
第9回の「受験川柳」は、現役の若い作者の心理が句によく現れていたように見えた。半面、記憶の中の受験や頭の中で受験を句にした現役ではない世代の作品は、やや例年と似た内容で、新しさに欠けるものも多かったかもしれない。最終的に選ばれた句を拝見して、さらにそれを感じた。やはり川柳は人間が現れる文芸で、細やかな心理が余韻として句から漂ってくるものがいい句と感じられる。
受験勉強の最中、川柳を作ることは、無駄なエネルギーと時間を費やしてしまったと思う人もいるかもしれないが、川柳を通して自身の気持ちが再認識され、コトバにすることによって、カタルシスにもなったのではないだろうか。
応募された皆様へ感謝申し上げるとともに、合格の栄冠を勝ち取られるよう心よりお祈り申し上げる。
1960年東京生まれ。女子美術大学特別招聘教授。川柳公論社主宰。祖父・三笠、父・三柳とつづく川柳家。2017年、十六代目川柳を嗣号。川柳作家としてだけでなく、「川柳学」の研究者としても活動、川柳記念館創設の運動を始めた。川柳史料の散逸を防ぎ、収集・整理・保存・研究・公開を目的とした〈朱雀洞文庫〉主宰。著述および各地での川柳講座、講演、川柳展、川柳記念館設立の運動等で川柳の文化普及活動を行う。