受験川柳スペシャル講座 誰でもわかる川柳入門 初回「川柳を知る」

受験川柳スペシャル講座 誰でもわかる川柳入門 初回「川柳を知る」

2024年 06月 21日

小社では毎年、「受験川柳」を募集しております。川柳は世代を問わず誰でも取り組めて、受験のような身近なテーマを元に作品を作れることが魅力の一つです。一方で、「川柳とはなにか」について知る機会は少ないのではないでしょうか。

そこで、本連載では受験川柳の選評者である尾藤川柳先生に、川柳の基礎知識や作品創りのポイント、楽しみ方などを数回に分けてご解説いただきます。

初回である今回は川柳の意義、目的について、見ていきましょう。

川柳 の力 

 こんにちは、尾藤川柳(びとう・せんりゅう)です。16代川柳(「川柳」は川柳家としての「号」)として、普段は川柳講座、川柳教室、講演、著述、川柳展の企画、公募川柳の選者等を行いながら、川柳文化の発信をしています。

 長年、川柳に向き合ってきた私ですが、川柳をしていてよかったなあ~と思えることがあります。過去に作った句を読むと、その時の気持ちを思い出すことができるのです。

 この2句は、私が15歳の高校受験の時期に作った川柳で、1975年7月発行の「川柳公論」という川柳誌に載ったものです。偏差値が導入された世代で、テスト漬けの日々でした。

 ことばには、作者の思いを吐き出すことで、心を癒す力があります。上記のように苦しい時、哀しい時でも、句を作ると、その痛みが半分になることがあります。反対に、嬉しい時に作った句は嬉しさを何倍にも増幅してくれます。作った川柳が、やがて作者の分身となり、一句一句が人生の伴侶にもなります。

川柳 3つの視点

 さて、わずか一七音という短い言語空間で、作者の心や時代背景まで映し出す川柳は、手軽な表現手段として新聞やwebメディアの川柳欄、SNSなどで発表され親しまれています。皆さんも、「受験川柳」以外にも公募川柳の作品などをどこかで見かけたことがあるのではないでしょうか。このように身近な川柳は、実は江戸以来260年を超える歴史をもつ、短歌や俳句と並ぶ短詩文芸の一つなのです。そのなりたちや俳句との違いなど、詳しいことは次回以降にご説明します。今回は川柳を知るうえで大切な、3つの視点をご紹介します。

 260年の間には、時代とともに多様な表現と内容、切り口が生まれました。大きく分けると、次の三つのタイプになるでしょう。

(1)客観的に人間・社会を視る   …伝統的タイプ

(2)態度を入れて(批判的に)視る …時事(風刺)的作品

(3)自己表出(思想・感情)の手段 …近代以後

(1)は、江戸以来の伝統的川柳の視点です。目に見える社会や人間の生活を客観的に見つめ、その中の矛盾(アイロニー)などを捉えて笑いにするものです。

(2)の視点は、明治以降に「時事川柳」の発展とともに鍛えられてきたもので、諷刺詩としての川柳がこれにあたります。これも客観的視点です。江戸時代には、幕府による規制が厳しい時期もあり、社会や政治、人物に対して、当てこすりくらいの批判はできましたが、諷刺という捉え方をすることは社会的にできませんでした。

(3)が、明治新川柳勃興後、西洋詩の影響を受け、主観的作品として、目に見えない心の内側を言語化して捉えるものです。さらに戦後に女性作家が増えることによって、大きく花開きました。

 

 では、具体的例を見てみましょう。同じ「空」という題でよまれた次の3句は、それぞれ(1)から(3)に対応します。

公募川柳では、(1)ないし(2)が多く見られますが、「受験川柳」のようなテーマの場合、時折(3)の主観的視点の句も現れてきます。例えば、第9回の入賞句

 

 

は、正に、見えない心の焦りを物理の公式に見立てた(3)のタイプの川柳といえるでしょう。

 

 川柳は、「五七五」というリズムだけが約束の詩です。とても簡単に作ることができるのが川柳の世界です。でも、上の例のように、描く対象が人間であると、その人の人生や心の深さまで含むので、川柳は奥行きを持ちます。私などは、小さい頃から川柳をしてきましたので、川柳作品の成長が私の心の成長そのものです。

 ぜひ、この機会に、川柳という文芸を身近なものとしてみてください。きっと、小さい容器に盛られたことばの宝石が、作者の人生ばかりでなく周辺の方々にも伝わり、後には、子孫にまで作者の思いを伝える心のタイムカプセルにもなるでしょう。

 

いかがでしたか?第2回は川柳のなりたちや俳句との違いについてご説明いただきます。

 

プロフィール

尾藤川柳

1960年、東京生まれ。

尾藤三柳、十五代脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰。

2016年、三柳の逝去により川柳公論社代表、「川柳はいふう」主宰。

2017年、十五代川柳逝去の為允可により「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。

編著書に『川柳総合大事典』『川柳のたのしみ』他多数。

現職:十六代川柳。川柳公論社主宰。川柳文化振興会理事。川柳人協会理事。女子美術大学特別招聘教授。

公式ホームページ「ドクター川柳」http://www.doctor-senryu.com/