受験川柳スペシャル講座 誰でもわかる川柳入門 第5回「川柳作りのコツ」

受験川柳スペシャル講座 誰でもわかる川柳入門 第5回「川柳作りのコツ」

2024年 11月 27日

小社では毎年、「受験川柳」を募集しております。川柳は世代を問わず誰でも取り組めて、受験のような身近なテーマを元に作品を作れることが魅力の一つです。一方で、「川柳とはなにか」について知る機会は少ないのではないでしょうか。

そこで、本連載では受験川柳の選評者である尾藤川柳先生に、川柳の基礎知識や作句のポイント、楽しみ方などを数回に分けてご解説いただきます。

最終回である今回は、句に広がりをもたせるためのコツ、添削・指導の際に気をつけたいことを見ていきましょう。

 

ワンランク上へ―新しい言葉の関係を見つける

言葉を選ぶ行為は、一語一語の意味ばかりでなく、句となったときの言葉同士の関係が重要です。一つの句の中での類似な言葉は予定調和を生みやすくなり、句としての広がりを抑制してしまいます。では、広がりをもたせるためにはどのような工夫ができるのでしょうか。

◆ 意味よりイメージを重視

江戸の川柳にこんな句があります。

國の母生れた文を抱あるき

句の意味を広げて解釈すれば、「子どもが生まれたので、郷里の母に子どもが生まれたと文を送ったら、赤ちゃんを抱くように文を抱いて喜んでくれた」と言ったところでしょうか。ここでは、「生まれた文」というだけで、「子どもが誕生したことを知らせる手紙」という意味がすべて内包されています。普通の文のような、主語「子供が」や動詞「知らせる」が不要であることがわかるでしょう。また、「抱き歩き」からは、郷里のお母さんが孫の誕生を喜んでいる様子が目に浮かびます。こここからも、イメージによって伝えられていることがわかるでしょう。

十七音で「意味」だけを伝えようとすると、文章の切れ端のようになったり、または標語のようになってしまい、句が広がらなくなってしまいます。前回もお話したように、意味ではなく、状況を視覚的イメージで伝えるというのが重要になります。

◆ 使う言葉はシンプルに

他にも注意したいことがあります。例えば、「綺麗に咲いた赤いチューリップの花」といった修飾語が多ければ多いほど、句語としては、イメージを広げるというより制約する方に働いてしまいます。「チューリップ」というだけで、読者には、「咲いた」と言わずともチューリップの花が見え、各自の経験に基づいた色彩がついて見えます。このように、動詞の使用はイメージの制約に繋がりますので、一句あたり「1つ以下」とするのが良いでしょう。動詞のない名詞構文でも川柳は成立するのです。

◆ 言葉のつながりを作り出す

また、「花」に関して、「花が咲く」という使い方は当たり前ですが「花が泣く」とか「花の声」という言葉のつながりを見出したとき、句は新鮮さをもつことができます。新しい言葉と言葉の関係を見つける…ここにも創作の楽しみが感じられるのではないでしょうか。

 

良い川柳を作る指導のポイント

川柳は、俳句のような季語や切れ字の制約がない分、自由に見えますが、自由であるがゆえの難しさがあります。また、人生の経験や言葉に対する認識の深さが、作品の質に影響を与えます。川柳を長期休暇の課題にされる中学・高校の先生もいらっしゃるかと思いますので、ここでは学校の先生方に向けて、生徒さんへ助言する際に留意したいポイントをご紹介します。もちろん、作句する本人が読んでも有用ですよ。

◆ すべてを言わなくてよい

前回、「見入れ」でも説明しましたが、川柳の課題を出す際に、「現象の報告・説明・理屈」を避けるよう、予め伝えておきましょう。すべてを言おうとせず、一部を描くことによって余韻を感じさせるようアドバイスできると良いでしょう。

また、作品の中で作り手の意見・心の内をすべて言い切って完結してしまうと、読み手にとっては押しつけ・独善と感じられてしまいます。あくまでも一番言いたいことは言わない表現が効果的です。

受験川柳の第9回の受賞句で言えば、

は、努力した末の幸運を願う作者の心理が言外に伝わってくる良い例でしょう。

◆ 定型をなるべく守る

形式では、やたらに定型を崩さないことが大切です。リズムによる言葉の浸透度は、万葉以来の音律によって訴求力があります。意味だけにとらわれてリズムや形式を壊してしまった作品は、よほどのセンスがない限り、単なる奇をてらった表現になってしまいます。十七音しかないので、添削には難しい部分がありますが、まずは、語順や助詞などを推敲し、定型に収まるよう、形式面から整えることを伝えると良いでしょう。

◆ 余分な言葉を削ぎ落とす

内容的には、句の広がりを疎外しやすい無駄な形容詞や動詞を避け、小主観に陥らないよう、句に使われている言葉だけを利用して推敲することになります。ただ、いい句にしようと原句と別物にしてしまうと、添削の範疇を逸脱してしまうので、塩梅には注意が必要です。

近年の受験川柳の応募作品から例を2つあげてみます(元の作品も十分素敵なのですが、もし添削するならば、の例です)。

面白い経験をとらえていて素敵な作品だと思います。ただ、「積んで」「提出」と二つの動きがあり、すべてを言い切ってしまっているようで、もったいない。たとえば、「提出」は、当然のことなので省き、「AO入試」は七音で最後に来ると据わりが悪いので

とするとより良いかもしれません。

また、

これも作者の気持ちがよくわかる良い作品です。ただ、「~すると~」という理由のついた説明になっていて、余韻を感じさせるにはあと一歩のようにも思われます。句には、「客間」が必要であると前田雀郎という先達が言っています。つまり、読み手が入り込んで想像を広げられる部分です。そこで、

解いた数から見えてくる未来

解いている」という動作を「解いた数」のような体言にしてしまえば、広がりにつながります。また、「」は自明ですので、とってしまっても良いでしょう。主語がなくてもわかるのが日本語ならではの特長です。このような言葉を省略しても伝わる点や、あるいは様々なオノマトペなどは新しい表現のヒントになるのではないでしょうか。

 

いかがでしたか?自由な川柳だからこその、難しさと醍醐味がよくわかりましたね。

尾藤先生のホームページではさらに詳しく、良い句のチェックポイントも紹介されていますので、ご興味のある方は覗いてみてください。

この連載を通して、さらに川柳に興味をもってもらえていましたら、嬉しく思います。

 

初回「川柳を知る」はこちら

第2回「川柳と俳句の違い」はこちら

第3回「川柳を作ってみよう①」はこちら

第4回「川柳を作ってみよう②」はこちら

 

プロフィール

尾藤川柳

1960年、東京生まれ。

尾藤三柳、十五代脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰。

2016年、三柳の逝去により川柳公論社代表、「川柳はいふう」主宰。

2017年、十五代川柳逝去の為允可により「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。

編著書に『川柳総合大事典』『川柳のたのしみ』他多数。

現職:十六代川柳。川柳公論社主宰。川柳文化振興会理事。川柳人協会理事。女子美術大学特別招聘教授。

公式ホームページ「ドクター川柳」http://www.doctor-senryu.com/