小社では毎年、「受験川柳」を募集しております。川柳は世代を問わず誰でも取り組めて、受験のような身近なテーマを元に作品を作れることが魅力の一つです。一方で、「川柳とはなにか」について知る機会は少ないのではないでしょうか。
そこで、本連載では受験川柳の選評者である尾藤川柳先生に、川柳の基礎知識や作句のポイント、楽しみ方などを数回に分けてご解説いただきます。
今回は川柳を作るうえで重要な「リズム」と「音」について、見ていきましょう。
川柳の形式とリズム
川柳の基本形式については、前回でも触れましたが、「五七五」これだけが与えられた川柳のルールです。このように定まった形式をもつ詩を「定型詩」といいます。また、伝統的俳句のように「季語」や「切れ字」が必要という縛りはありません。
◆ 川柳の構成
この句の場合、最初の五音『赤本の』の部分を上五(かみご)または初五(しょご)といいます。真ん中の七音『売り切れで知る』は、中七(なかしち)といい、最後の『敵の数』という五音を下五(しもご)ないし座五(ざご)と呼びます。
川柳は、上五・中七・下五の三つの部分から成り立っていますので、三句体(さんくたい)といい、その間の小さな「間」を切れといいます。切れが、リズムを作るとともに、切れを挟んだ言葉と言葉の関係で、より句が深まるという作用が発生します。
◆ リズムを大切に
1️⃣ 字余り・字足らず
五七五の十七音の音数が変化する字余りや字足らずという作品もあります。ただ、一般的には、三句体のパーツの一つが溢れたり不足したりする場合で、三句体のうち二か所以上で字余りになるようだと、リズムが崩れた非定型の表現になってしまいます。
文芸の川柳では、川柳作家と呼ばれる一部の表現者が、独自のリズムを開拓した表現をすることがありますが、新聞の時事川柳や多くの公募川柳の場合には、「定型」の表現であることが求められることが多くなっています。これは、同じ土俵で作られた作品の良し悪しを判断する必要があるからです。
2️⃣ 五七五の順でなくてもOK
さて、五七五の「定型」といっても、絶対に五七五の順でなければいけないという訳ではありません。次のように変格定型と呼ばれるリズムがあります。
①中八
中七に字余りがあり、八音になってしまった形式で、サラリーマン川柳や公募川柳の作品にも見られる形です。助詞を省いたり、長い言葉を入れ替えたりして推敲できる場合には、単なる間伸びした下手な表現となってしまうので注意が必要です。句の内容によって、それ以上推敲できない絶対性がある場合には、これも準定型の表現とみなすこともできます。
②七五五
川柳が始まった宝暦頃は、五七五が主流でしたが、天明期には、七五五の句が多くなっています。
かつて上のような受験川柳の受賞句がありましたが、ちょっと語順を変えて、
としても句は成立します。さらに調子が滑らかになっていることにお気づきでしょうか。五七五は、重厚な格調が感じられますが、リズムとしてはやや停滞的です。時代によって「五七調」や「七五調」の流行りがありました。明治後期の流行は七五調で、川柳入門書にも『七五五が川柳の定型』と記したものもあったんですよ。
③句跨ぎ(句渡り)
下の句のように上五の音が余り、中七にまで入り込んでしまったものをいいます。
九-八、八-九、七-十などという形をとることが多いですが、これも安定感のあるリズムで変格二段切れなどと呼ばれます。
このように、いろいろなリズムのパターンがありますが、慣れないうちは、まずは五七五のリズムを守るようにするとよいでしょう。
音を数える
さて、定型詩では、言葉の音数を数えるということが必要になります。
たとえば「救急車」という言葉は、何音と数えるのでしょう。仮名で書けば、「きゅうきゅうしゃ」という八文字ですが、次のようなルールが適用されます。
◆ 長音
長く伸ばす音「ー」は、長音(母音を伸ばす音)といい、これは、一音と数えます。「A判定」や「E判定」は、それぞれ「えーはんてい」「いーはんてい」ですので六音ですね。
◆ 促音
小さな「っ」は、促音(そくおん)といい、一音と数えます。「ラッキー」は、四音です。
◆ 拗音
小さな「ゃ」「ゅ」「ょ」や小さな「ぁ」「ぇ」で表される言葉があります。これらを拗音(ようおん)といいます。それぞれ「しゃ」「しゅ」「しょ」とか「じぇ」のように、大きな仮名文字と一組で一音となります。ですから、仮名二文字で一音ということになります。
これらを踏まえると、「救急車」は「きゅ・ー・きゅ・ー・しゃ」で五音ということになります。他にも、皆さんお使いの「シャープペンシル」は、七音ということですね。こんなことをわざわざ書いたのは、簡単に推敲で直せる字余りや字足らずの作品が、寄せられることも多いからなんです。投稿前に音数のチェックを忘れずに、ですね。
いかがでしたか?ぜひ、作品を考える際の参考にしてくださいね。次回は具体的な作句のプロセスについてご解説いただきます。
初回「川柳を知る」はこちら
第2回「川柳と俳句の違い」はこちら
プロフィール
尾藤川柳
1960年、東京生まれ。
尾藤三柳、十五代脇屋川柳に師事。川柳公論編集委員ののち「川柳さくらぎ」主宰。
2016年、三柳の逝去により川柳公論社代表、「川柳はいふう」主宰。
2017年、十五代川柳逝去の為允可により「櫻木庵川柳」として立机、十六代目川柳を嗣号。
編著書に『川柳総合大事典』『川柳のたのしみ』他多数。
現職:十六代川柳。川柳公論社主宰。川柳文化振興会理事。川柳人協会理事。女子美術大学特別招聘教授。
公式ホームページ「ドクター川柳」http://www.doctor-senryu.com/