

関数を微分するとその地点での傾きを表します。受験生はみんな毎日勉強時間と質を伸ばしているので、その変化の量、傾きは無限に近いことを表しています。
高校で微分や積分という概念を学び始めると、急に大人の世界に踏み込んだ気がしたのではないでしょうか。微分は、傾き。ある時期は、伸び悩むこともあったでしょう。またある時は、絶好調に学べる瞬間も…。過去ばかり思うのではなく、今の、そしてこの先の努力を思う時、その瞬間の伸びは「無限大」になる可能性も秘めているはずです。そのことに気づいたのは、「微分」という概念をまさに身に着けたからなのでしょう。16歳の等身大がここに。
赤本を通して志望大学のキャンパスを思い描く受験生の心情を詠んでいる。
赤本に「未来」を垣間見るなんて、とても素敵。私は、問題の難しさと実力のギャップに打ちのめされたほうですが、ソララさんは、それを乗り越えた先がもう赤本に垣間見えたよう…。こんな前向きな受験との接し方なら、きっと成功は間違いないのでしょう。とても明るく、読み手にも力を分けてくれるような一句。
ずいぶん詩的な表現の一句。まだこの赤本の大学は、遠い目標のよう…。他者にはまだ知らたくない心理が「カバー」に働いたのか、長い戦いに備えて保護のためのカバーだったのか。陽光ではなく、「月明かり」というのが、そのまま、のこさんの心理を表象。僅か十七音に、目の前の赤本と自分の距離とが描かれました。
「ルート」は、「平方根」にも「道」にも重なる仕立て。数学の解を求める行為が、やがてサクラサク…へ到達するルートにも繋がるだろうという一句。結果ばかりを追い求めるのではなく「ひたむきに」という姿勢が、受験という長時間の試練への解であることを身をもって知ったのだろう。巧い一句。
もう直前に迫った受験。「夜明け」は、〈合格〉ということなのか、それとも、〈受験当日〉なのか…。最初は、遠い目標であった志望校。合格への一本の道を歩く伴侶として共に過ごした赤本は、ずいぶんと愛着のある存在になっていったのではないでしょうか。あとは「夜明け」を待つ覚悟のみ。受験生の心理が彷彿。
ずいぶんと勉強に年季がはいりましたね。昔の付箋と違って今は、カラフルなものやキャラクターものまで。その色の一つ一つが、作者にとっては、単語との一期一会に向き合った証。この付箋のネオン発光が、やがて、合格という眩い光の中に包まれる瞬間に向けて積み重なっていく。描写体の表現が心地よい。
私は、高2の初めに志望校の赤本を手にした時、特に数学で全く手の出ない問題を見た瞬間、「距離」というものに打ちのめされました。やがて数Ⅲを学ぶにしたがって、やや距離が縮んだのを覚えています。かつどんさんの場合は、いかほどの距離を感じたかはわかりませんが、誰もが感じる「距離感」の言語化が見事。
「受験川柳」ももう第10回目。毎年、現役の受験生、そして受験期の思い出や、受験生へのメッセージを送ってくださる受験OBの皆さんの作品。それぞれの思いを私も自分のこととして楽しく拝見してきました。
今回は、若い世代のみの受賞になりました。まさに等身大の心理が句に表れ、「受験期」という特別な時間の作者心理が浮かび上がりました。多くの人が経験する「受験」というテーマでは、似たような思い出を詠まれた句も多くなります。過去の回想や受験についての概念だけではなく、今の受験と自分の立ち位置を捉えるような視点があるといいかもしれません。
いい句がたくさんありました。受賞を逃した句は、作者にとって残念なことではありますが、受験勉強の最中、川柳を作るということで、受験と自身について客観的に見ることができたのではないでしょうか。それは、決して無駄にはなりません。川柳を通して自身の気持ちが再認識され、言葉にすることによって、なにがしかのカタルシスにもなったと思います。
応募された皆様へ感謝申し上げるとともに、合格の栄冠を勝ち取られるよう心よりお祈り申し上げます。
1960年東京生まれ。女子美術大学特別招聘教授。一般社団法人川柳文化振興会常務理事。祖父・三笠、父・三柳とつづく川柳家。2017年、十六代目川柳を嗣号。川柳作家としてだけでなく、「川柳学」の研究者としても活動、川柳記念館創設の運動を始める。川柳史料の散逸を防ぎ、収集・整理・保存・研究・公開を目的とした〈朱雀洞文庫〉主宰。著述および各地での川柳講座、講演、川柳展、公募川柳等で川柳の文化普及活動を行う。
2025年9月24日(水)
応募作品のなかから最優秀賞などを選考し、賞品を進呈します。
応募資格は問いません。
受験生のみなさま、受験生だったみなさま、受験生のご家族、先生など、ふるってご応募ください。
「受験」にちなんだ川柳(五・七・五の十七音)
※作品の説明(状況・心情)をあわせてお寄せください。
※応募数に制限はありません。
赤本ブログにて、選評者 尾藤川柳先生の「受験川柳スペシャル講座『誰でもわかる川柳入門』」を公開しています。作品づくりの参考にしてください。
下記投稿フォームよりご応募ください。
学校等の団体で応募される場合は、団体応募用紙をダウンロードし、郵送でご応募ください。
団体応募用紙