第4回 直前期にするべきこと

第4回 直前期にするべきこと

2021年 12月 27日

共通テスト本番が近付いてきました。この直前期、地理においてするべきことは何でしょうか? 想定される出題形式をふまえ、中土居先生が解説します。


共通テスト本番までいよいよ残り1か月を切り、ラストスパートの時期ですね。この連載もついに最終回となりましたが、少しでもみなさんのポテンシャルを引き出し、得点アップにつなげられるよう全力で書いていきます!

これまで、共通テストの問題を取り上げながら入試地理対策のポイントを伝えてきました。今回は、共通テストの中で最も特徴的かつ今後の定番となり得る形式の問題へのアプローチについて解説するとともに、本番への備え方を提案します。

それでは、次の問題を1分で解いてみましょう。

   

◆問題◆

次の表1は、小麦の主要輸出国について、小麦の生産量、小麦の1ha当たり収量、国土面積に占める耕地の割合を示したものであり、A~Cは、アメリカ合衆国、フランス、ロシアのいずれかである。また、下の文ア~ウは、表1中のA~Cのいずれかにおける小麦生産の特徴と背景について述べたものである。A~Cとア~ウとの組合せとして最も適当なものを、下の①~⑥のうちから一つ選べ。

 

 

 

〔2021年度本試(第1日程)地理B 第2問 問1〕

 

 

◆ 解答プロセス ◆

 解法  読解

1.資料中の「顕著な違い」に注目する

・表1中のA~Cのそれぞれの特徴(他との違い)を比べてみよう!

2.その違いが何と関わるのかを考える

●説明文のニュアンスに注目してみよう!

→ウでは小麦生産について「他の穀物との競合が生じた」とあることから、小麦の生産量は「減少傾向にあるのではないか」と考えられるため、Aと一致する。アでは小麦生産について「大規模な農業企業が増加した」とあることから、小麦の生産量は「増加傾向にあるのではないか」と推測できるため、Bと一致する。残るイは、Cと一致する。

➡正解:⑤

 

 

   

新定番!? 「ブラインド系問題」とは

共通テストで新たに登場したのが「ブラインド系問題」です。これは、国などの具体的名称(事象)を明かさないまま2つの資料の判定を求めるという形式の問題です。上の例題も、従来であれば、表中のA~Cと3カ国の組合せ、または文章ア~ウと3カ国の組合せを判定させるだけでした。しかし、共通テストではA~Cとア~ウがどの国であるかを明かさないままにその2つの資料(統計と説明文)の組合せを判定させています。上の例題のほかに、以下も「ブラインド系問題」といえるでしょう。

 

2021年度本試験(第1日程) 第2問 問4

2021年度本試験(第2日程) 第3問 問4

 

もちろん、第3回の例題で取り上げたような従来型の組合せ問題も少なからず出題されると予想されますが、「ブラインド系問題」は思考の過程を重視する共通テストの象徴的な問題になっていくと考えられます。

 

   

アプローチは2通り!

では、「ブラインド系問題」にはどのようにアプローチしていけばよいのでしょうか? 方法は大きく分けて、①具体名を明らかにしないまま解く②具体名を明らかにしながら解く、の2つです。例題の解答プロセスでは ① を使っています。すなわち、ア~ウの説明文のニュアンスから小麦生産量の動向を推察し、A~Cのそれぞれの特徴と結びつけるという方法です。

これを ② の方法で解くと、以下のようになります。

 

 

1.知識理解から表1中A~Cの国を判定

C:「小麦の1ha当たり収量」が多い

  「国土面積に占める耕地割合」が高い

→フランス

・粗放的なアメリカ・ロシアの農業と比べて土地生産性が高い

・低平な地形や温暖な気候を背景に耕地割合が高い

B:「国土面積に占める耕地の割合」が低い

→ロシア

・国土の大部分が冷帯でタイガが広がり、耕地は南西部など一部に限られている

A:消去法により

→アメリカ合衆国

※A~Cは、統計を覚えていれば「小麦の生産量(2017年)」からすぐに判定することも可能

 

2.知識理解から説明文ア~ウの国を判定

ア:「生産活動の自由化が進められ」

→ロシア

・社会主義体制が崩壊し、市場経済化、生産の自由化が進められている

ウ:「バイオ燃料」

→アメリカ合衆国

・バイオエタノール生産が増加し、主原料のとうもろこしの生産が増加している

イ:「農村振興のために、補助金」

→フランス

・EU随一の農業国であり、農業政策への支援が手厚い

 

3.上記の1と2を結合

 

 

考察にあたっては、表と説明文を完全に独立させて判定する必要はありません。例えば「Aの特徴(小麦生産量の減少)とウの表現(他の穀物との競合)は一致しそうだし、Aの特徴(他と比べた小麦生産量や土地生産性、耕地割合の程度)とウの表現(バイオ燃料)はアメリカ合衆国っぽいから、A=ウで間違いない」というふうに、ドッキングしながら判定することになるでしょう。

国などの具体的名称(事象)を明らかにせずとも解ける問題は一定数ありますが、ここで繰り返し強調しておきたいのは、説明文や図表の特徴を適切に読み取るとともに、確固たる知識理解と結びつけて解くことが安定的な高得点を可能にするということです。したがって、本番までの残り時間、問題に応じての解法を使いこなす訓練をしつつ知識理解をさらに補強していきましょう。なお、上で挙げた2021年度本試験(第1日程) 第2問 問42021年度本試験(第2日程) 第3問 問4により判定するとよいです。

 
   

本番に向けた最終確認

この時期になると、毎年多くの受験生から「残り期間で何をするべきですか?」という質問がきます。答えはもちろん個人の進捗状況によって異なるわけですが、「ブラインド系問題」へのアプローチの説明で述べたように、たとえひと通りの学習を終えた受験生であっても、知識理解の充実というのは直前まで追求する余地があります。これをふまえ、あえて多くの受験生に伝えておきたいことがあるので、以下を参考にしてみてください。

   本番に向けた最終確認   
  ■ 模試や過去問の復習  
  間違えた問題のみ  
  ・本番で類題が出る可能性もあるため、必ず習得しておこう。  
  ・せっかく時間をかけ、集中して解いた問題。そのままにするのはもったいない!  
     
  ■ 農業・鉱工業関連の統計チェック  
  ・思考の拠りどころ。基本品目を押さえておこう。  
     
  ■ さらなる問題演習  
  ・知識理解の使い方に慣れよう。  
  必ず時間を測って解くこと! スピーディーな思考ができるよう、少し厳しめの時間設定で演習しよう。  
  ・初見問題への対応力や時間配分の感覚を掴むために、最終盤は予想問題集を活用するのも〇。  
  ※最後の「地域調査」の大問は絶対に最低10分を確保すること! 資料読解量こそ多いものの、丁寧に読めば得点しやすい。  
     
   ーーーーー (最後の1週間) ーーーーー  
     
  ■ 「広く・浅く」全分野を復習  
  ・知識理解の網羅的な最終確認。 積み上げてきたことを確認し、自信と「やり切った感」を得よう。  
     

 

 

 

全4回の連載もこれで終わりです。最終回まで、共通テスト地理に挑むうえでのいろいろな「重要観点」を紹介してきましたが、それは言い換えれば「問題へのアプローチは1つとは限らない」ということでもあります。この多様なアプローチを諦めずに考え続けることこそ、本番で高得点を取るために重要であり、また地理という科目そのものを勉強する醍醐味でもあるのです。

 

本番はめちゃくちゃ緊張するでしょうけど、大丈夫です。これまでに積み重ねてきた努力は絶対にその手に宿っています。「重要観点」を携え、自分がやってきたことを信じて、悔いのないよう思いっきり実力をぶつけてきて下さい!! 成功を祈っています。

 

 

 

 

中土居 宏樹(なかどい・ひろき)

現在、河合塾では広島や大阪、京都など西日本各地の校舎に出講し、共通テスト対策から東大対策まで幅広く地理の授業を担当。全国模試や塾教材の作成にも関わる。趣味である入試問題研究や海外旅行の経験を存分にいかした熱く勢いのある授業が人気で、講習会では定員締切を出す。いかに生徒が地理を好きになってくれるか、そして本番で結果を出せるかを追求しながら、日々の授業を楽しんでいる。

 

 

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