第3回 問題考察と対策上のポイント②

第3回 問題考察と対策上のポイント②

2021年 11月 08日

11月。周囲の受験生が問題演習を進める中、点数が伸びないと悩んでいる人もいるかと思います。連載「共通テスト地理対策の圧倒的重要観点」第3回は、第2回に続いて中土居先生が問題演習の際の目の付け所を解説します! 今回取り上げるのは人文地理の問題です。


秋も深まり、肌寒い日が増えてきました。共通テスト本番まで残り100日を切り、焦りを感じている受験生も多いと思いますが、地道に努力を続けている人は着実に実力が上がり、少しずつ結果がついてきます。焦らず、やれる事を一つずつやっていきましょう!

では早速、次の問題を1分で解いてみましょう。

   

◆問題◆

日本の企業は,経済のグローバル化に伴い,海外への直接投資を積極的に増やしてきた。次の図3は,日系海外現地法人の売上高のうち,製造業の売上高について主な国・地域別の構成比の推移を示したものであり,タ~ツは,ASEAN*,アメリカ合衆国,中国**のいずれかである。国・地域名とタ~ツとの正しい組合せを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。

   *インドネシア,タイ,フィリピン,マレーシアの4か国の値。

 **台湾,ホンコン,マカオを含まない。

 

 

〔2021年度本試(第1日程)地理B 第2問 問5〕

 

 

◆ 解答プロセス ◆

 解法  読解+知識理解

1.資料中の「顕著な違い」に注目する

・図3中のタ~ツのそれぞれの特徴(他との違い)を比べてみよう!

2.その違いが何と関わるのかを考える

●既出のモデルデータに注目してみよう!

→ヨーロッパは2000年時点ではタに次いで売上高の割合が高いが、次第に低下している。よって、「日系海外現地法人の製造業の売上高の構成比」について、早くに経済が発展していた先進地域の数値は早くから高いが近年は低下基調にあるのではないか、要は、各国・地域の「経済水準(経済発展の度合い)」と相関があると気づければ◎!

●各国、各地域の経済水準を比べてみよう!

→選択肢の中では、アメリカが最も早くから経済が発展している。ASEAN4か国と中国では、ASEAN(特にタイやマレーシア)の方が経済発展は早く、遅れて特に2000年頃から中国が急速に経済発展している。

したがって……

最も経済発展が早かった先進国アメリカ合衆国:タ(早くから割合が高いが近年は低下基調)
次に経済発展が早かったASEAN4か国:チ(2000年時点でタに次いで割合が高い)
発展のタイミングは最も遅かったが近年急速に発展している中国:ツ(急増している)

➡正解:③

(補足)海外直接投資

海外直接投資とは、工場・農場・鉱山などの企業経営とその利益の確保を目指して海外に資本を移動すること。本問では「日系海外現地法人の売上高のうち、製造業の売上高」の統計が使用されているが、要するに「日本の製造業の海外進出(工場建設など)」を想起すればOK。そして製造業の進出の狙いは、主に①海外の安価な労働力、②有利な税制の活用、③現地市場の獲得(販売拡大)であり、特に①・②狙いの場合は発展途上国向け、③狙いの場合は先進国向けが多い傾向がある(※近年は新興国も③の対象となっている)。また、④円高や貿易摩擦を背景に生産拠点を移転するケースもみられ、例題の欧米諸国が典型例である(1980年代頃の日本と欧米諸国の貿易摩擦が移転のきっかけとなった)。

ここで重要なのは、①~④のどのパターンであっても、企業進出が行われるにあたっては進出先の投資環境が整備されていることが前提となるという点である。例えば①狙いでも、識字率やルール順守の意識などの労働者の質、舗装道路や港湾設備、電力供給などのインフラ整備、外国企業の受け入れに関する法制度など、最低限の投資環境が整っていなければ企業(工場)進出は難しい。つまり、単純に人件費が安い国・地域に投資が集中するわけではないことに注意したい。

この知識理解を踏まえると、次のように、より正確に根拠をもった解答が可能となる。

日本の製造業は1980年代以降、貿易摩擦や円高を背景に、早くから経済が発展し巨大な市場を有するアメリカやヨーロッパに積極的に投資してきたが、国際競争力の強化を図る目的で次第に安価な労働力や税制優遇を求めてアジア諸国への投資を増やしたため、アメリカやヨーロッパの割合は低下した(→タ:アメリカ合衆国)。安価な労働力や税制優遇を求めたアジア諸国への投資のうち、中国と比べて投資環境の整備が早かったASEAN諸国に対し、日本の製造業が盛んに進出するようになった(→チ:ASEAN)。その後、投資環境の整備に伴い、安価な労働力や税制、有望な市場を狙った日本企業による中国への投資が急増し、割合も急増した(→ツ:中国)。

 

 

 

   

出題者からのヒントを見抜く

模試や本番の入試問題では、考え方がやや難しい問題について、以下のような形で考察のヒントが示されることがあります。

●モデルデータの提示

今回であればヨーロッパのデータがまさにその例です。「ヨーロッパのような先進地域ではこういう推移となる」ということを最初に示すことで、「同じ先進国(例題ではアメリカ)は同様の推移となるのではないか」と気づかせるためのヒントになっているわけです。

もちろん、世界の全地域の様子を示すために解答とあまり関係がないデータを載せることもありますが、ヒントが隠れていることも少なくありません。 センター試験まで含めた過去の出題例としては、以下が挙げられます。

 

2017年度試行調査 第4問 問5

2017年度本試験 第3問 問3

2015年度本試験 第5問 問5

 

●問題文冒頭の記述

問題を解くにあたって、最初の前置きを飛ばして、いきなり選択肢の判定にあたる受験生は案外多いです。時間配分を考えるとその気持ちもわかりますが、前置きを読み飛ばしてしまうのはちょっともったいないなとも思います。 問題文冒頭には出題のテーマが書かれていることがあり、それがヒントになっていることが少なからずあります。

 

2020年度本試験 第2問 問1

2019年度本試験 第3問 問6

 

他に、第2回ブログで紹介した問題もその例です。

今後の問題考察の際には、上記のような出題者からのヒント、出題意図を意識して問題に取り組んでみましょう!

 

   

人口と経済水準

入試地理では、例えば「高齢者割合」や「都市人口率」のような定番のもの、あるいは例題の「日系海外現地法人の製造業の売上高の構成比」のようなあまり馴染みのないものなど、多種多様な統計が用いられます。しかし、結局その多くが各国・地域の経済水準と密接にリンクするものです。したがって、安定的な高得点を目指すためには主要国・地域の経済水準とその推移に関する理解が非常に重要です。この理解が曖昧だなと思う人は、1人当たりGNI(国民総所得)1人当たりGDP(国内総生産)を必ず覚え直すべきです。その際、対象国は入試によく出る主要国に絞り、数値は概数でOKです。選択肢にあがってくる国の経済の差(アは先進国で、途上国のうちイの方がウより発展している、など)を相対的に判断できるレベルにしておけば十分です!

また、同時に主要国の人口概数もある程度は覚えておくべきです。例えば国別の「1人当たりエネルギー消費量(万t)」の場合はその国の経済水準と比例しやすいですが、「エネルギー消費量(万t)」のような国全体の合計値の場合は、当然その国の総人口にも比例しますよね。ここからわかるように、人口も人文地理の超重要要素です。

もちろん人口と経済水準だけではなく、自然環境や社会・文化に関する知識理解を求める問題もあります。しかし、多くは人口と経済水準がカギになっているので、これを機に知識を補充し、問題考察の際には意識してみましょう!

 

   

やはり過去問に類題あり

前回同様、過去の類題を示します。類題を解いたことがあれば事前に日本の対外直接投資の変遷をイメージでき、今回の例題もずいぶん解きやすかったはずです。

 

 

2013年度追試験 第2問 問6

2007年度本試験 第2問 問6

 

 

連載最後の第4回は、共通テストの定番となり得る「ブラインド系問題」に対するアプローチ、比較地誌の観点、本番に向けた最終確認などがテーマです。記事が公開されるのは、皆さんにとって共通テスト対策の追い込みの時期だと思います。これを読んで、地理対策の仕上げを万全にして欲しいと思います。残りの期間、悔いのないように頑張りましょう!

 

 

第3回のまとめ

 

■ 問題考察のポイント
問題に隠されたヒントから「出題のテーマ」や「出題意図」を見抜こう
既出のデータを参考にしよう
問題文冒頭の記述を参考にしよう

 

■ 学習の仕方のポイント

①主要国の人口と1人当たりGNI、GDPを必ず覚えよう
・経済の規模、発展の程度、その推移を理解することが統計判定の根幹になる。

②類題を経験則的に判定するため良質な過去問でたくさん演習しよう

     

 

 

中土居 宏樹(なかどい・ひろき)

現在、河合塾では広島や大阪、京都など西日本各地の校舎に出講し、共通テスト対策から東大対策まで幅広く地理の授業を担当。全国模試や塾教材の作成にも関わる。趣味である入試問題研究や海外旅行の経験を存分にいかした熱く勢いのある授業が人気で、講習会では定員締切を出す。いかに生徒が地理を好きになってくれるか、そして本番で結果を出せるかを追求しながら、日々の授業を楽しんでいる。

 

 

過去の記事はこちら