
2024年度より、英検は、1級から3級において問題の出題形式が変わりました。注目すべきは、ライティングセクションで「要約問題」が出題されたことです。第2回検定試験が終わり過去問も公開されましたが、要約問題については、まだまだ不安に思っている人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、吉川大二朗先生に、2024年度第1回の問題を分析しながら、どんな対策をすればよいのか具体的にアドバイスをしていただきましょう。
英検、なにが変わった? 難しくなった?
まず、今回のリニューアルについてまとめると、リーディングセクションの問題を減らし(3級は変更なし)、ライティングセクションの出題数を1題増やしたということです。準1級においては、リーディングセクションの問題は41問から31問にまで減らされています。注目すべきは、多くの受験者が苦手とする第1問の「短文の語句空所補充」問題が7問も減らされているのです。(詳しくは、英検の「問題形式リニューアル 特設サイト」https://www.eiken.or.jp/eiken/2024renewal/をご覧ください。)
ライティングへの負担が大きくなったように思われるかもしれませんが、これは考え方を変えれば受験者にとっては大きな安心材料となったといえます。これまで、このライティングセクションは、たった1題で、他のリーディングとリスニングのセクションと同等のスコアが与えられていました。ライティングの英語運用力をたったの1題で評価されるわけですから、受けた回の出題テーマが自分の答えやすい内容であれば幸運ですが、そうでなかった場合にはかなり不利な状況に置かれてしまいます。形式が異なるとは言え、問題が2題出題されることによって、そのようなリスクが減ったわけです。
また、級によっても若干の差がありますが、ライティングセクションの受験者の得点状況は、他のセクションと比べても比較的高い傾向にあります。他のセクションの問題が減り、ライティングセクションの問題が増えることは、一般的には受験者にとって有利に働くと考えられます。
新形式の問題はどんな問題?
1級、準1級、2級でそれぞれ新たに取り入れられたのが、英語の文章を英語で要約するというものです。準1級の場合だと、200語程度で書かれた文章を、60~70語程度で要約するというものになります。過去には、英検1級で、英語の文章を日本語で要約するという、東大の英語の要約問題のような形式が出題されていましたが、英語の文章を英語でまとめるというのは、英検の問題としては初の形式になります。
2024年度第1回の問題を見てみよう!
記念すべき初回となる2024年度の第1回では、「学校における無料の給食提供の取り組み」に関する文章(200語程度)が出題されました。3段落で構成され、各段落の分量は、短い段落では50語程度、長い段落では90語程度でした。もちろん、全体像がつかめる題名(タイトル)は書かれていません。英検の公式ホームページで公開されている解答では、この文章を、4つの英文(総語数62語)で要約していました。
模範解答を見てみると…
- 無料の学校給食がすべての生徒に提供され続けるように取り組む人たちがいる。
- プログラムの支持者たちは、すべての生徒が昼食を食べられるようにすることにより、学業成績を向上させることができると信じている。
- さらに、給食を無料提供することで、限られた時間しかない親たちが他のことに集中できるようにもなる。
- しかしながら、批判者らは、食べ残した食事から出る食品によってかなりの量の廃棄物が生じると主張している。
以上のように要約されています。1文に用いられている英語の語数は15~16語となっていました。元の文章のおおよそ3分の1の英語にまとめることになります。
また、試験のリニューアル前に公開されたサンプル問題も含めて、第1段落は主題の導入、第2段落はプラス面、第3段落はマイナス面を説明する構成をとっています。先だって行われた第2回検定も、見事に同じ文章構成、語彙レベルで出題されていました。今後も、この傾向は続くと思われます。
どのような力が求められている?
英検のホームページによれば、「複数の技能(領域)を統合した言語活動の充実」を図り、「知識や技能の習得だけでなく、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じた言語の運用を考える中で思考力、判断力、表現力等の育成」の必要性から、今回の問題改訂に至ったと述べられています。要約の問題は、主に思考力、判断力、表現力の育成を目指したものと考えられます。
わかりやすく説明すると、準1級で求められているのは…
(1)段落ごとの主旨を理解し(思考力)
(2)具体的な情報は極力取り除き(判断力)
(3)自分の言葉で適切にまとめ直して表現する(表現力)
この3つの力です。2024年度第1回を用いて、詳しく説明していきましょう。
(1)段落ごとの主旨を理解する(思考力)
一つの段落には一つの主張が含まれていることを理解し、思考力を用いて、それを正確にとらえることが求められます。
2024年度第1回の問題の第1段落であれば、上述の通り、「無料の学校給食がすべての生徒に提供され続けるように取り組む人たちがいる」といった内容です。
(2)具体的な情報は極力取り除く(判断力)
思考力と判断力を用いて、理解を深めるための具体例や追加情報など、削除しても要約の内容を伝えるうえで大きく妨げにならないものを除いていきます。
2024年度第1回の問題の第1段落で言えば、第2文(These meals tend to include a variety of foods, including salads and desserts.)にあたります。「様々な食事を含んでいる」という表現を残したとしても、「サラダやデザートを含む」といった表現は理解を深めるための具体例なので必要ありません。さらに、語数の関係から「様々な食事を含んでいる」という箇所も、模範解答では要約には入れられていません。これらの情報をどこまで入れるかは、与えられた語数で決めていきます。
200語を100語に要約する問題なら、より具体的な説明「様々な食事を含む」も加えることができるかもしれません。しかし、英検が求めているのは「60~70語」での要約です。70語で200語の内容を過不足なくまとめる場合には、具体的な説明は省いて各段落の大事なところだけを抽出するようなまとめ方が必要となります。もちろん、70語以内に、「様々な食事を含んでいる」を盛り込んでも間違いにはなりませんが、それを入れることで、語数をオーバーしたり、第2段落と第3段落の主張が盛り込めていないようでは、減点に繋がるでしょう。
ただし、今後、大学入試で要約の問題の出題が増える可能性を見越して、要約する際には、具体例や具体的な情報はすべて削除する、というわけではない点を補足しておきます。英文の中には主張部分がかなり抽象化されている場合があります。その際には、言い換え表現や、具体的な説明部分から得られた情報を盛り込まないと、抽象的過ぎてかえって内容が伝わらない要約文が出来上がってしまうことがあるので、注意が必要です。
(3)自分の言葉で適切にまとめ直して表現する(表現力)
難しく感じるかもしれませんが、要するに自分の持っている語彙で、本文中の表現よりも短くまとめられそうな表現は積極的に使用していく姿勢が求められていると思ってください。
2024年度第1回の第2段落では、問題文中で使われているsupporters「支持者」と言った具体的な言葉はそのまま要約文にも使われています。さらに本文の内容と模範解答を見比べてみると
【本文】
すべての生徒に健康的な食事を提供(provide)することが重要で、そうすることで、集中力(concentration levels)を改善(improve)し、よりよい点数(better test scores)に繋げている(lead to)
【模範解答】
すべての生徒が昼食をとることを確かなものとすること(ensuring all students have lunch)が、学業成績の向上(boost their academic performance)に役立つ(help)
「集中力を改善し、よりよい点数に繋げる」は「学業成績(academic performance)の向上に役立つ」にまとめ直していることがわかります。ensureやboostといった動詞は自分で使うことには少し難しく感じるかもしれませんが、準1級では、別の動詞に言い換えるような語彙力も付けていってほしいということでしょう。ただし、どうしても思いつかない場合には、今回の問題ならboostは本文中のimproveをそのまま用いたとしても大きな支障はきたさないと考えられます。
実際の評価項目は、①内容、②構成、③語彙、④文法の4つの項目が0~4点で、合計して0~16点で評価されるわけですが、要するに、文章全体が伝えようとしている内容を、各段落の主張を取り入れながら、自分の言葉で正しく言い換える力が求められているのです。
どのような対策をすればよいか?
書店ではすでに、級ごとにいくつかの対策問題集が出始めていますが、それらを利用しなくても、過去問を利用すればかなりの量の演習を行うことが可能です。ただし、準1級の過去問ではなく、2級の過去問が役に立ちます。
この要約問題の文章は、準1級のリーディングセクションの英文よりも、かなり平易な表現を用いて書かれています。内容も、どの文章が主張部分であるかわかりやすい構成になっています。そのレベルはちょうど、2級のリーディングセクションの大問2ーA・2ーBと同程度か、むしろこの2題の方が語数としても構成としても、少し難しいと言ってもよいかと思われます。よって、英文のレベル的にも、これらの問題を使い、要約の練習をすることは効果的な対策と言えます。
ただし、これらの長文の段落構成は、「主題の導入→プラス面→マイナス面」といった形式には必ずしもなってはいません。何が必要で何を残すか、自分の言葉でまとめる練習にはちょうどいいという意味でお勧めをします。
自分がまとめた各段落の要点が正しいかどうかを確認するには、教学社が出している「英検2級過去問集」(英検赤本)の解説が役に立ちます。教学社が出している「英検過去問集」(英検赤本)では、他の長文問題も含めて、解説では必ず「各段落の要旨」が日本語でまとめられています。要約の練習をされる際には、2級の長文問題の文章の段落を10~20語程度の英語でまとめ、「各段落の要旨」で、内容を確認しながら、できるだけたくさんの演習を行うとかなりの力が伸ばせると思われます。
今、教学社の英検2級の過去問題集をお持ちで、これから準1級にチャレンジしようと思っている方は、合格したからと言って安易に他の人には譲ってしまわずに、2級の過去問題集を用いて、しっかりと要約問題対策を行うようにしてください。
一つ補足をすると、英検赤本の「各段落の要旨」は日本語で書かれていますので、「英語での要約が見たい」「自分の要約の英語にミスがないかどうかを確認したい」という人には、以下のようなツールを活用することをお勧めします(有償版を使う必要はありません)。
- グーグル翻訳/DeepL…日本語で要約を入力してみて、模範解答を作ってみるとよいでしょう。
- DeepL Write/Grammary…表現のミスの訂正などに役立ちます。
- Gemini/ChatGPT…問題文を入力して、「〇〇語程度の英語で要約してください」とお願いすると、模範解答を作ってくれます。「CEFR-B1レベルで」などの条件をつけると自分の語彙レベルに合わせて要約文の解答例を作成することが可能です。
準1級にチャレンジするレベルに到達しているみなさんであれば、十分に使いこなすことが可能だと思います。
さいごに
この英語の文章を英語で要約する問題は、今後、大学入試においても出題の頻度が増える可能性が十分にあります。準1級レベルの要約問題でしっかりと高得点を取れるように学習し、大学入試で出題されたとしても、慌てず的確に解答する力を養ってくださいね!
吉川大二朗(よしかわ・だいじろう)
立命館慶祥中学校・高等学校教諭。1976 年、京都市生まれ。
小学生を対象に英検5級から、中学高校生を対象として1級までを指導。Be curious! Be critical! Be creative! を指導のモットーとして、学生が楽しみながら英語を習得できる授業作りを目指して日々格闘中。中高一貫英語教材『NEW TREASURE Third Edition』シリーズ(Z会出版)の編集・執筆協力。高校検定教科書「CROWN 論理表現 Ⅰ」(三省堂)執筆協力。「竹岡の英検マスターシリーズ」(教学社)共著。
関連書籍
『英検準1級過去問集(2024年度版)』
ISBN978-4-325-26061-5
定価2,225円(本体価格2,050円)
教学社編集部 編
収載回数No.1!! 合格への近道は過去問演習! 赤本執筆陣による充実の傾向分析&詳しい解説で、英検突破への英語力を鍛えよう! 新たに加わるライティング「要約問題」の解き方も伝授!
関連動画
赤本チャンネル 「英検 新形式対策動画」