受験のメンタルケア:第3回 保護者必読!子どもとの関わり方の注意点

受験のメンタルケア:第3回 保護者必読!子どもとの関わり方の注意点

2023年 06月 16日

大学受験生とその保護者の方々は、ストレスの多い環境下で心身ともに負担を感じることが多いと思います。

そこで本連載では、精神科医で、日頃より10代の患者さんを診る機会も多い増田史先生に、受験にまつわるメンタルの悩みについて、実践可能な対処法を教えていただきます!

第3回目の今回は、受験生の子をもつ保護者に是非読んでいただきたい内容です!受験生の心と体の健康のために、日々の生活の中でどのような点に気をつけて関わるとよいか、具体的にご説明いただきます。

受験生の方も、健康管理や、保護者に自分の不安・不調を伝える際の参考にしていただければと思います。

目次

Q1.子どもの健康のために気をつけることは何ですか?

Q2.子どもとの程よい距離のとり方を教えてください

Q3.保護者だって心配で不安でイライラします!

 

はじめに


 受験期は保護者の方も大変ですよね。ここでは、受験期を子どもとともに健やかに過ごすためのヒントをご紹介します。

 

Q1.子どもの健康のために気をつけることは何ですか?


 心身の健康のためには、睡眠と生活リズムが整っていることが重要です。昔は四当五落などと言ったものですが、必要な睡眠時間を削って机に向かっても、集中力は上がりません。また、生活リズムが崩れると、気分の変動をきたしやすくなります。

四当五落:睡眠時間を4時間にして受験勉強に励む生徒は合格でき、5時間も睡眠をとると不合格になる、という意味。(睡眠はしっかりとりましょう!人それぞれですが、10代の受験生なら7時間程度は睡眠がとれると理想的です)

より良い睡眠を取るために重要なこととして、

①昼寝や夕寝は時間を決めること

②夕方以降のカフェイン摂取は避けること

③寝る前のスマホ操作を控える

などがあります。

昼寝はするとしても14時まで、できれば20分以内に留め、なるべく夜にまとめて寝るようにしましょう。緑茶やコーラなど、カフェインが入った飲料も夕方以降は避けましょう。

就寝前にスマホの画面を見ると睡眠に必要なホルモンの分泌が抑制され、眠りが浅くなることが知られています。ベッドに入ってからの使用は避けましょう。

休日に寝る時間や起きる時間が極端に遅くなる場合がありますが、近年ではこれを「ソーシャル・ジェット・ラグ」と呼び、その後何日も眠気や疲労感が続くことが知られています。なるべく毎日一定のリズムで過ごすようにしましょう。

また、近年は自販機でもエナジードリンクが手に入りますが、若年の方にはおすすめできません。エナジードリンクは不眠や依存だけでなく、イライラや気分の落ち込みといった心への悪影響も引き起こします。差し入れで渡すのも避けるのが無難です。

そして子どもの健康のためには、保護者が健康でいることがなによりも大切です。保護者も十分に寝て、なるべく疲れをとってください。

 

Q2.子どもとの程よい距離のとり方を教えてください


 子どもとは長い間一緒にいるので、ついつい「自分が責任を負わないと」とか「この子のこういう所は私に似たんじゃないか」などと思ってしまいがちです。しかし、子どもは、あなたとは完全に別の人間です。全てを自分と結びつけて考えることはやめ、子どもも一人の「何を考えているかよくわからないけれど尊重すべき他者」であることを認めましょう。責任を感じて何もかも抱え込む必要はありません。

もし「子どもは保護者がコントロールすべきもの」という考え方を持っているとしたら、少しそれを疑ってみましょう。「うちは上手くいった」というおうちがあったら、それは偶然上手く行ったか、保護者が勝手にそう思っているか、のどちらかと言っても過言ではありません。距離が近くなりすぎたと思ったら「この子が他の家の子だったらどうするかな?どんな声をかけるかな?」と少し客観的に考えるのも一手です。

そして、子どもは子どもで失敗する権利も挑戦する権利もあります。大抵の場合、保護者は先にいなくなりますので、子どもがどういう道をたどれば幸せだといえるのか、答え合わせができることでもありません。まずはご自身の幸せを考えながら、子どものことは現実的に許せる範囲でサポートするというくらいが、保護者のできることではないでしょうか。

 

 子どもとの距離のとり方に気をつけて接しているつもりでも、上手くいかないときの例として以下のような場合も考えてみましょう。

《情緒不安定な子にどう接すればよいでしょうか?》

 子どもが情緒不安定なときに当たられたりすると大変ですよね。まずはご自身で物理的な距離を取ってください。子どもを家に残しても安全な状況であれば、外に出るのでも構いません。そのときには声を荒げず、静かに「ちょっと向こうへ行っておくね」などと言い、そっと距離をとるのがポイントです。そして子どもが落ち着いたときに「よく落ち着けたね」「さっきはどうしたの、よかったら聞かせて」「大変だったね」などと声をかけてみましょう。たとえ保護者自身がまだ動揺していたとしても、グッとこらえましょう。相手が落ち着いたときに、こっちも落ち着いて関わるのが重要です。これは相手が「望ましい行動」をしたときに積極的に関わることで、その行動が増えるという原理を利用しています。つまり子どもが情緒不安定なときに「なんでこっちに当たるんだ!」などと怒ってしまうと逆効果で、子どもの困った行動はどんどん増えることが予想されます。

 

Q3.保護者だって心配で不安でイライラします!


 先の質問とも関連しますが、保護者だって心配で不安でイライラするのは当然ですよね。しかしここで子ども自身に当たってしまうと、そのときはスッキリするかもしれませんが、中長期的にはマイナスです。小さい弟妹がいればどこかに預けてでも、ストレスを発散する時間を作りましょう。

もし、子どもの様子を見ていて怒りが湧いてくるのだとしたら、それはあなたが小さいときに同じような行動をしていて怒られたことが、無意識に思い出されているのかもしれません。でも、それは本当に怒られなくてはいけなかったことだったのでしょうか。昔の自分自身をイメージして、その子に向かって「あのときあんなふうに怒られたけどさ、本当は理由もあったんだよね。悲しかったよね、頑張ったよね」と声をかけてあげてみてください。多少は今のイライラや怒りが和らぐかもしれません。

そして、保護者も協力者や相談相手がいないとイライラしがちです。なるべく家庭以外の人間関係も大切にして、必要なら話を聞いてもらうなどして、しんどい時期を乗り切っていきましょう。

 

プロフィール

増田 史(ますだ ふみ)

滋賀医科大学精神医学講座助教。日本精神神経学会専門医、医学博士。

児童思春期を中心とした臨床・研究を行うほか、精神疾患に対するスティグマ(偏見)解消にも取り組んでいる。2児の母。

著書に「10代から知っておきたいメンタルケア―しんどい時の自分の守り方」(ナツメ社)など。

 

いかがでしたか?保護者の方は、ストレスを溜めずにお子さんを程よくサポートするための参考にしていただけると幸いです。また、受験生の方は、保護者の方に「こんな記事があったよ」と伝えて、一緒に受験期の乗り切り方を考えるきっかけにするのもよいかもしれません。第4回は模試や本番で役立つ、緊張・不安への対処法をご紹介します。

 

「第1回 ストレスってなんだろう?」はこちら

「第2回 人間関係がしんどいときの処方箋」はこちら