受験のメンタルケア:第2回 人間関係がしんどいときの処方箋

受験のメンタルケア:第2回 人間関係がしんどいときの処方箋

2023年 05月 01日
大学受験生とその保護者の方々は、ストレスの多い環境下で心身ともに負担を感じることが多いと思います。そこで本連載では、精神科医で、日頃より10代の患者さんを診る機会も多い増田史先生に、受験にまつわるメンタルの悩みについて、実践可能な対処法を教えていただきます!
第2回目の今回は、受験生の人間関係のお悩みに答えていただきます。
目次
Q1.感情がコントロールできず、家族にあたってしまいます
Q2.友人に嫉妬してしまいます

 

はじめに


 受験期は自分のことだけでも大変なのに、他人との関係性においては、余計に思い通りにいかずに、イライラすることもあるのではないでしょうか。家族と険悪になったり、友人に嫉妬したりと、ネガティブな感情がわいてくるような場面も多いかと思います。ここでは、そのようなときの対処法を具体的に紹介します。

 

Q1.感情がコントロールできず、家族にあたってしまいます


 イライラを家族にぶつけてしまうと、しんどいでよすね。イライラの原因とともに、家族にあたってしまった罪悪感も一緒に抱えることになってしまいます。実のところ、自分の中に浮かんでくる感情そのものをコントロールするのはとても難しく、下手に抑えつけると後で爆発してしまうこともあります。爆発しないよう、イライラを弱めるにはどうすればいいでしょうか。以下の3つの方法を提案します。

①感情がたかぶる原因や状況を整理する

②家族に自分の状況を説明する

③対処方法をリストアップしておく

それでは、実際に一つひとつ、やり方を見ていきましょう。

 

①感情がたかぶる原因や状況を整理する

 いつも同じテーマで感情がたかぶったり、ネガティブ感情の波が来たりするのであれば、一度紙に書き出して整理しておくことをおすすめします。そして、感情を無理やり抑えつけるのではなく、「こういうネガティブな感情は、あってもいい、大丈夫。この気持ちを好きになれなくても、一緒にいて大丈夫」と迎え入れてあげる方が、早く落ち着くことも多いものです。

一つ覚えておいてほしいことは、受験の結果はあなた自身の価値には何の関係もないということです。そもそも人間のあらゆる側面の中のたった一つだけの尺度で切り取られて評価されるのが「受験」です。それがあなたの価値や、さらには生きている意味を決めるなどということは、有り得ないのです。逆に言えば、たとえ合格してもそれはゴールではなく、人生の通過点に過ぎません。

 また、周囲の人があなたに対してプレッシャーをかけてきたり、受験に関して不快なことを言ってきたとしても、その人は自分のメンツが大事なのかもしれず、あなたの人生の面倒を最後まで見てくれるわけではありません。責任を取ってもくれません。あなたの人生に責任を取れるのはあなただけなので、放っておきましょう。

 

②家族に状況を説明する

 自分がイライラして家族にあたってしまいそうなときは、その状況を冷静に家族に説明するというのも一手です。家族からしても、ただ機嫌が悪くイライラされるのと、状況を伝えてもらえるのとでは心の持ちようが変わります。「受験期なんだからわかってもらえるだろう」と思うこともあるかもしれませんが、それはやや相手に頼りすぎです。「伝えていないことは伝わっていない」ことを前提として考える方が、家族であっても人間関係は円滑に進みますし、何より相手を尊重することになります。相手を尊重すると、自分も尊重される、いい循環が巡ってきやすくなります。

 

③対処方法をリストアップしておく

 イライラしたり落ち込んだりしたときには、気晴らしが有効な場合も多いです。しかし、実際にネガティブ感情の波が来たときは、考えの幅が狭くなっているので、対処方法や気晴らしは上手く思いつかないものです。このため、連載の第1回でも触れたように事前にリストアップしておくことをおすすめします。軽い運動をする、いい香りを嗅ぐ、音楽を聴く、などなんでもいいのですが、なるべく多くの対処方法、最低でも10個、をリスト化しておきましょう。リストは質より量です。これを毎日見返して、感情の大きな波が来たときには、そのリストの中からいくつかトライしてみましょう。リストはいつでも入れ替えたり増やしたりできます。

Q2.友人に嫉妬してしまいます


 友人の方が成績が良いと、モヤモヤしますよね。いつも比べられている感じがして落ち着かないかもしれません。

まず「今、友人のことが羨ましいんだ、嫉妬しているんだ」と自分の感情を丸ごと認めることから始めてみましょう。嫉妬する感情は苦しいですし、情けないので「なかったこと」にしてしまいがちですが、そうすると体や心、そして行動として、思わぬ形で出てきてしまったりします。自分の気持ちに真正面から向き合うことがポイントです。

そして「これは嫉妬だ」と気づいたら、優しく受け容れてみましょう。先ほど述べましたが「こういう気持ちがあってもいい、大丈夫。この気持ちを好きになれなくても、一緒にいて大丈夫」と唱えて、自分の一部として認めてみてください。きっと、無理に抑えつけるよりは穏やかに、また前を向いて自分のために進めるようになると思います。

 

プロフィール

増田 史(ますだ ふみ)

滋賀医科大学精神医学講座助教。日本精神神経学会専門医、医学博士。

児童思春期を中心とした臨床・研究を行うほか、精神疾患に対するスティグマ(偏見)解消にも取り組んでいる。2児の母。

著書に「10代から知っておきたいメンタルケア―しんどい時の自分の守り方」(ナツメ社)など。

 

いかがでしたか? 受験勉強に取り組んでいると、どうしても周りと比較してしまったり、気持ちに余裕がなくなってしまいコミュニケーションがうまく取れないこともありますよね。何だか疲れたな、辛いなと思うときに参考にしてみてください。

第3回は受験生の保護者へ向けて「子どもとの関わり方の注意点」を取り上げます。

 

「第1回 ストレスってなんだろう?」はこちら