受験のメンタルケア:第1回 ストレスってなんだろう?

受験のメンタルケア:第1回 ストレスってなんだろう?

2023年 03月 22日

大学受験生とその保護者の方々は、ストレスの多い環境下で心身ともに負担を感じることが多いと思います。

そこで本連載では、精神科医で、日頃より10代の患者さんを診る機会も多い増田史先生に、受験にまつわるメンタルの悩みについて、実践可能な対処法を教えていただきます!

連載の第1回では、まず「ストレスとはなにか」について取り上げます。勉強の息抜きも兼ねて、「心と体」に意識を向けてみましょう。

目次

1)そもそもストレスってなに?

2)ストレスが私たちに与える影響は?

3)負のスパイラルを断ち切るヒント

4)ストレス対処の考えかた

5)過度なストレスには要注意!

6)誰かに話してみるのもおすすめ

7)身体症状があれば受診を!

はじめに


 受験生の皆さま、そしてご家族の皆さま、いつもお疲れ様です。とてもストレスフルな日々を送っていることと思います。人によっては、「ストレスがかかるとお腹が痛くなる」「ストレスが溜まると眠れなくなる」などの困りごとをお持ちの方もいるかもしれません。この記事では、日常生活で使われる「ストレス」という言葉を、少し掘り下げ、心身に起こる反応や対処のための考えかたを紹介してみたいと思います。

 

1)そもそもストレスってなに?


 ストレスを与えるものや出来事を「ストレッサー」といいます。そして、ストレッサーを受けたときに心身に出る反応を「ストレス反応」と呼びます。

ストレッサーを水、そして私たち自身を“底に穴の空いた水槽”だと考えてみましょう。水槽には毎日どんどん水が注ぎ込まれていきます。水の量は多い日も少ない日もあるかもしれません。私たちは穴からうまく水を流すために、気晴らしをしたり考え方を工夫してみたりして穴を増やし、なんとか溢れないように日々頑張っています。

ところが、入っていく水の量と、出ていく水の量のバランスが崩れて水が溢れてしまうと、身体や心にさまざまなストレス反応が出てしまいます。先にあげた「お腹が痛い」「眠れない」もストレス反応として少なくない症状です。場合によっては、うつ状態になったり、自傷行為や暴言・暴力につながったりすることもあります。注がれる水を減らし、穴をたくさん確保することが、心身の健康には重要です。

 

 2)ストレスが私たちに与える影響は?


 ストレス反応は4つに分けて考えると整理しやすいといわれています。4つとは、「気持ち」「考え」「身体」「行動」です。例えば「3日後の実力テストの準備ができていない」という状況を想定してみましょう。

焦り、イライラ、ゆううつなどの「気持ち」が出てきて、

『なんで今まで準備してこなかったんだろう』『だいたい、この時期に実力テストをするなんて、ひどい』『どうせ今からやっても間に合わない』といった「考え」が浮かび、

お腹が痛くなったり発疹が出たり動悸がしたりと「身体」の具合が悪くなり、

参考書を開けるも結局Youtubeを見たり、とりあえず寝たりといった「行動」 が出てきます。

 

3)負のスパイラルを断ち切るヒント


 この4つのストレス反応は悪循環を起こすことが多く、問題を回避するような「行動」を取ったあとには焦りやイライラの「気持ち」が強くなったり、「身体」の具合が悪くなると余計にネガティブな「考え」が頭を巡りやすくなったりします。

この悪循環を断ち切るには、どこから手をつけるのが良さそうでしょうか。どこが変えやすそうだと思いますか? 「気持ち」や「身体」はなかなかコントロールし難いのですが、「考え」や「行動」は少し工夫する余地があるかもしれません。この工夫が、水槽の穴を増やすことにつながります。

4)ストレス対処の考えかた


 例えば、普段自分に厳しい言葉をかけてしまいがちな人は、「この状況、自分の大切な友達が同じ目に遭っていたら、なんて声をかけるかな?」と考えてみてはどうでしょうか。自分にかける言葉よりも温かい言葉が出てきませんか?ぜひ、その言葉を自分自身にもかけてあげてください。

頭でぐるぐる考えてしまったときには、運動やストレッチなど体を動かすなど、体に意識を向けることが有効です。

また、いい香りを嗅ぐ、良い手触りのものを触るなど、五感を心地よいもので満たしていくのも良いですね。

このような対処方法は、質より量です。自分にとって効果があるものをたくさんリストアップしておくと便利です。

 

 

5)過度なストレスには要注意!


 ただし、穴をいくら増やしたところで、入ってくる水の量が多すぎると、限界に達してしまいます。いくら穴を増やしても溢れ出てしまいそうなときは、普段の生活においてストレッサーが多すぎないか、あるいは目の前の課題や目標があまりにもプレッシャーになりすぎていないかなど、今の環境を見直すことが、心身の健康に有効な場合があります。

 

6)誰かに話してみるのもおすすめ 


 しんどいときには人に話したり相談したりすることもとても大切です。身近な人に話せない、あるいは話したくない場合には、一般に公開されている相談窓口もあります。電話相談はもちろん、LINEでの相談窓口も複数設置されています。記事の最後に連絡先を紹介しておきますので、気になったら見てみてくださいね。

 

7)身体症状があれば受診を!


 身体に症状が出ている時には、ストレスのせいと決めつけず、まず小児科や内科を受診することをおすすめします。眠れない・食べられない状態が続いている場合や、自分を傷つけたり自殺したい気持ちが強い場合には、精神科やメンタルクリニックを受診するのがよいでしょう。身体の受診と同様、こころのケアとして活用していただければと思います

 

おわりに


 ここまで紹介してきたように、自分に合った対処方法を積極的に探して紙に書いてストックしておくと、急に大きなストレッサーに直面したときも対処しやすくなります。ぜひご家族で試してみてください。

 

参考:悩みを話せる公的な相談窓口

こころの健康相談統一ダイヤル:TEL 0570-064-556
→各都道府県・政令指定都市が実施している公的な相談機関。Webサイトはこちら
(相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なる)
よりそいホットライン:TEL 0120-279-338
→一般社団法人 社会包摂サポートセンターが実施。Webサイトはこちら
(24 時間対応)
いのちの電話:TEL 0570-783-556
→一般社団法人 いのちの電話連盟が実施。Webサイトはこちら
(午前 10 時~午後 10 時)
LINE相談窓口:生きづらびっと ID検索 @yorisoi-chat
→厚生労働省 自殺防止対策事業として「NPO法人 ライフリンク」が実施。Webサイトはこちら
LINE相談窓口:こころのほっとチャット ID検索 @kokorohotchat
→NPO法人東京メンタルヘルス・スクエアが実施。Webサイトはこちら

 

プロフィール

増田 史(ますだ ふみ)

滋賀医科大学精神医学講座助教。日本精神神経学会専門医、医学博士。

児童思春期を中心とした臨床・研究を行うほか、精神疾患に対するスティグマ(偏見)解消にも取り組んでいる。2児の母。

著書に「10代から知っておきたいメンタルケア―しんどい時の自分の守り方」(ナツメ社)など。

いかがでしたか?心身の辛さを軽減させるヒントになりましたら幸いです。

第2回以降は受験生からよく寄せられるメンタルのお悩みを取り上げます。