【特別講義】新科目「情報Ⅰ」の攻略法 第3回 『「情報Ⅰ」Q&A』(授業編)

【特別講義】新科目「情報Ⅰ」の攻略法 第3回 『「情報Ⅰ」Q&A』(授業編)

2023年 08月 25日

 これまで連載してきた『新科目「情報Ⅰ」の攻略法』も終わりが近づいてきました。第3回は,まだまだ気になる色々なことを岡野先生にお尋ねしていきます。

 次にお尋ねするのは「タイピングが上達する方法」についてです。

 日常生活ではスマートフォンやタブレットを使うことが増え,タイピングをするのが学校の授業だけ,なんて人もいるのではないでしょうか。でもコンピュータが不可欠な情報社会においては,タイピングもまた大切なスキルの1つ。しっかり身に着けておきたいものです。

 まずはそこから,先生に聞いてみましょう!

 

Q1.パソコンのタイピングが苦手です! 得意になる方法はありますか?

 「情報Ⅰ」の学習では実践,すなわちコンピュータ機器の操作が必要不可欠です。

 高校生の多くは,自分が表現したいことを頭で考えるより,それをコンピュータに入力する作業の方がはるかに時間がかかります。その操作スピードを極力上げるため,まずはタイピングを練習しましょう。

 私の授業では,キーボードを見ずに打てるようになることを目指します。

 私が分析したところ,タイピングが得意な生徒の方が,実技課題の成績は高くなる傾向にあり,両者の間にはきちんと相関も見られます(相関というキーワードについては以前の記事を参照)。

 

 とはいえ,いきなりキーボードを見ずにタイピングをするのは難しい,と思う人もいるでしょう。そういった人におすすめしたいのが,キーボードを分割して練習する方法です。

 一般的なキーボードは上段,中段,下段と,数字がある最上段に分かれています。全部を最初からマスターしようとせず,まずは中段だけマスターすることを目指します。

 ここで覚えておいてほしいのが,「ホームポジションキー」です。これは,キーボード上に最初に指を置く基本となる配置のことを言います。

 左手人差し指はFに,右手人差し指はJに置きます。そして左手中指,薬指,小指をD,S,Aに,右手中指,薬指,小指をK,L,;(セミコロン)に置きます。多くのキーボードではFとJのキーに小さな突起がついているので,実際に打つときにはそれを手掛かりに指を置いてもよいでしょう。キーボードの中段は,人差し指の移動が必要なGとHを除けばホームポジションキーをそのまま押せばよいので,これに慣れることがタイピング上達への最初の一歩です。

 私の教えている学校では,「中段マスター」(https://typing.twi1.me/game/29641)というゲームを使ってこの中段のトレーニングをしています。ここでキーボードを見ずに2000点以上取れれば合格です。合格した人は,次に「中段と上段マスター」を使って,打つ範囲を広げていきます。これも見ずに2000点以上取れるようになったら,「下段と中段と上段マスター」とさらに広げていきます。

 このようにキーボード上の範囲を区切りながら練習すれば,無理なくタイピング能力を向上させることができます。

 ここで注意点ですが,タイピングは真剣に練習するととてもイライラします。そういうときには休憩がとても大切です。指を使った練習では,休憩中に実はスキルが上がっているという論文[1]もあります。しばらく休んで新たな気持ちでタイピングすると,スコアが急に上がることもあったりするので,その辺りも意識しながら練習できるとよいでしょう。

 また,友達と競い合いながらやると,よりモチベーションが上がるはずです。

 

Q2.「情報Ⅰ」を今勉強するのはなぜですか? 将来どんな役に立ちますか?

 先ほどタイピングのところでも少し触れましたが,「情報Ⅰ」が高校で学ぶ科目となっているのは,これからの社会を生きていくのに必要な能力を身に着けるためです。

 今後の日本は少子化が進み,様々な職業がロボットやAIに取って代わられると言われています。また,世の中の様々なデータを分析するデータアナリストという職業も脚光を浴びるようになってきました。

 このような社会を生きる人間として,若いうちからプログラミングやデータの活用に触れておくのはとても大切です。

 そうは言っても,今学んでいることと将来の仕事をなかなか結び付けてイメージできない人もいるでしょう。ここで私自身が,情報のスキルをどのように仕事に役立てているかを,少し述べておきましょう。

 意外かもしれませんが,情報に関する考え方や知識を身に着けていくと,コンピュータの前で作業する時間自体を少なくすることができます。

 コンピュータの前にいないときにも,色々と仕事のアイディアや順序などを頭の中で考えることができるからです。

 そしていざコンピュータの前に座ったときに,さらっとプログラミングや資料作り,データ分析,そしてデザインなどの仕事を行います。その結果,コンピュータを使った処理を速く行うことで,仕事を早く終わらせることができ,自分の勉強や趣味など,クリエイティブな時間に充てることができます。これが一番のメリットだと考えています。

 皆さんもこのようなスキルを身に着け,社会人になった際に早く仕事が終われば,家族や自分の趣味に時間を割くことができ,有意義な生活ができるのではないかと思います。

 

Q3 .最後に高校生・受験生に応援メッセージをお願いします。

 「情報Ⅰ」で学ぶことには,他教科でも使える知恵や物事の考え方,捉え方がたくさんあります。他教科でも学びたい内容を図式化,構造化,可視化し,自分が興味のあることを「情報Ⅰ」で学んだ手法を使って整理することができれば,大きく役立つ科目だと考えています。日本はICT後進国だといわれていますが,皆さんはより早くICTスキルを身に着け,世界で活躍できる人物になってほしいと願っています。


 岡野英樹先生、ありがとうございました!

 

[1] Consolidation of human skill linked to waking hippocampo-neocortical replay,ER Buch et al. ,Cell Reports Volume 35, Issue 10, 8 June 2021

 

岡野 英樹(おかの・ひでき)

佼成学園中学校高等学校 情報科教諭。実教出版 情報教科書「情報Ⅰ Python」「情報ⅠJavaScript」指導用教科書執筆。

授業研究「情報Iを見据えたプログラミング教育~学習者の独自設計を可能にさせたミニチュア配膳ロボットのプログラミング教材の開発と実践と評価~」令和4年公益財団法人東京都私学財団賞 受賞。慶應義塾大学院政策・メディア研究科修了。

「情報Ⅰ」はどうしてもスキルによって進度の差が出てしまう教科なので,課題設定を工夫しすべての生徒に飽きさせない授業設計を心掛けている。